女王様のご生還 VOL.50 中村うさぎ

ここ数年すっかり性的な欲望や情動を失い、枯れ木のように生きていた私であるが、久々にBL漫画を読んだのがきっかけで、すっかりエロ脳になってしまった。



とはいえ、リアルでエッチをする気は毛頭ない。リアルセックスなんかタカが知れてる。脳内妄想のエロさには到底かないませんな。

それにしてもBLに萌えてる私は、我ながら不思議な女である。リアルで男の射精見てもエロいなんて思ったこと一度もないのに、BL漫画の射精シーンにはめちゃくちゃ興奮する。なんでだろ。やっぱリアルでは、美しい顔を歪ませて喘いでイキまくる美少年なんて存在しないからか? でも、もしそんな美少年が目の前にいたとしても、私はきっとシラケちゃうんだろうな。そもそも私、男をそんなに乱れさせるほどのテクニックないし、男のチンコを弄ぶ趣味もない。ましてや男のケツの穴にバイブを突っ込みたいとも思わない。

なのに! BL漫画内でそういうシーンがあると、鼻息ブハブハになってしまうのだ。

たぶん、攻めてる人物が自分じゃないからだろう。私はBL漫画を読んでる時に、攻めにも受けにも自分を代入しない。美少年とイケメンが絡んでる場に自分なんか出てきたら、「ババア、すっこんでろ!」である。

他の人たちは知らないが、私のBL好きには「ミソジニー」が多分に含まれているのかもしれない。「女の出る幕じゃねー!」とか、どっかで思ってるんだよ、きっと。BLは、私が立ち入れない男の聖域だからエロいのだ。



ところが、だ。

そんなに「男同士のセックス」が好きかと言われると、これまたそうでもない。私の周りにはゲイが山ほどいるが、彼らのセックスなんて見たくもないし想像もしたくない。やっぱ、リアルってエロくないんだよね、私にとって。ゲイビデオなんかも全然ムラムラしませんよ。まあ、男優がタイプじゃないからかもしれんが。いや、美少年ものを観てもダメだろうな。生身の肉体はエロくない。



BLの場合、言うまでもなく男同士のラブ&エッチを描くわけだが、その発端はほとんど「レイプ」である。ゲイ×ノンケ、あるいは双方ノンケという設定も多く、だからどうしてもレイプが発端になるのだろうが、これが男女ものだったら私は心穏やかに愉しめないかもしれない。

女があんな風に無理やり犯されるのは痛々しいし、BLのように犯されながらもアンアンと声あげて女が喘いだりしたら「んなワケねーだろ!」とツッコんでしまいそうだ。要するに、しょせん男同士のエッチは、私にとってリアリティのない他人事なのだ。だからレイプシーンにも心おきなくムラムラできる。

私はリアルでもファンタジーでも、強引な男が嫌いである。壁ドンなんか真っ平だ。リアルでされたら激怒するだろうし(誰もしないけどなw)、漫画でも男が女をいたぶるのは好きじゃない。女が男をいたぶるのも、あまりピンと来ない。

ところが、BLでドSの攻めがウケの美少年をいたぶるのは大好物。いたぶられてる美少年が次第に恍惚として目を潤ませ、声をあげてよがっても全然ツッコミ入れたくならない。不思議だ。たぶんリアルで知り合いの男が犯されたら、相手を絶対に許さないだろうに。



そんなわけで、私にとってエロはリアルの束縛を受けないからこそのお愉しみであり、エロファンタジーとリアルを混同するなんてあり得ないのだ。

考えてみたら、恋愛だってそうだよね。ファンタジー内の恋愛は気障な台詞もありだけど、そんなのリアルで言われたら笑っちまうぜ! BLとかで「俺にはおまえしかいないんだ!」みたいな台詞が出て来るとキュン!とかするが(言われてるの自分じゃないしな)、リアルだと「何それ? 重いんですが」だよ。「俺のものになって!」とかも同じ。リアルで言われたら「ふざけんな! 私は誰のものでもねーよ!」だが、それが漫画で、しかも言ってるのも言われてるのもリアリティのないイケメンキャラなら、最高の口説き文句だ。

リアルで言われたいわけじゃないんだよ。むしろ言われたらウンザリだよ。でも二次元なら、私は私という束縛から逃れて何者にもなれる、あるいは何者でもない存在になれる。その自由さが私にとって快楽なのだ。

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