BDアニメ New Frontier 第1回『東のエデン 劇場版Ⅰ The King of Eden』

※2010年6月発売号の原稿です。なお連載の題名には「BDアニメ New Frontier ブルーレイでアニメの細部に接近遭遇!」と補足がついていました。

【惹句】百億円がチャージされた携帯電話を持つセレソン。美しい美術の色彩が、バトルの推移を引き立てる!

 2009年春、フジテレビ系ノイタミナ枠の放送スタート時に最終回の後に劇場版への継続が発表され、話題を呼んだ『東のエデン』。それは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(02)をヒットさせた神山健治監督初のオリジナルアニメである。『ハチミツとクローバー』の羽海野チカによるキャラクター原案を得て女性層に大人気となり、劇場版も超ロングランとなった。

 本パッケージは劇場版第1部に加え、テレビ版の総集編と新作CDドラマを収録し、ファンサービスもたっぷり用意されている。

 物語は「セレソンゲーム」を軸に動いていく。それは選ばれた12人の男女「セレソン」に百億円がチャージされた「ノブレス携帯」が渡され、万能システム“ジュイス”の助けを借りて「日本を救う」というゴールに向かうゲームだ。その中でセレソンNo.9の滝沢朗は独特の行動で注目を集めるが、彼はテレビ版最終回で「自分を王様にしてくれ」とジュイスに願い、記憶を消して行方不明となった。

 今回の劇場版では、ヒロインの咲が失踪した滝沢の手がかりを求めてニューヨークに来るところから始まる。

 本作最大のみどころは、甘い甘い「王子様の物語」を包み込む「リアルな空気」だ。現実世界と完全に地続きな感覚は、日本を出てアメリカに行ってもそれは変わらない。強い光線と雑多なディテールに充ちた舞台でトラブルに陥った咲は、滝沢に再会できるのか? 日本に残った咲の仲間たち「東のエデン」との連携により、事態が積極的に動く群像劇の魅力があり、Production I.Gによる緻密な画づくりで離れた時間と空間が編みあげられ、高まる緊張が心地よく感じられる。

 ブルーレイ化で嬉しいのは静止画を出せることだ。テレビ版ではどのセレソンが何をオーダーしたか、携帯の履歴を止めて見ることが隠れた楽しみになっていた。映画館では無理だったこの楽しみ方が、ついに可能となったわけだ。そして、繰り返し鑑賞することで浮かび上がる伏線とその回収、そこにこめられた多様な意味やメッセージも大きなポイントである。メリーゴーランドとゴールデンリングが何を暗示しているのかなど、考えどころも多い。

 画質的には美術監督の竹田悠介による色使いが美しい。特にコバルトブルーやオーカー、モスグリーンなどデリケートな色合いが、より鮮烈に迫ってくるように感じられる。心情を反映した照明効果ともども、物語の流れを背景画の豊かな色彩がぐっと引き立てる。完結にあたる「劇場版II」ともども何度も鑑賞に耐えるソフトである。

【2010年5月26日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)

氷川竜介

1958年兵庫県生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院客員教授。東京工業大学卒。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。日本SF作家クラブ会員。海外での展示会・映画祭での講演経験多数。文化庁向けに「日本特撮に関する調査報告書」「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。主な編著、参加書籍:「20年目のザンボット3」(太田出版)、「世紀末アニメ熱論」(キネマ旬報社)、「アキラ・アーカイヴ」(講談社)、『細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション』(祥伝社、2015年)、「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989」(国書刊行会)など。