BDアニメ New Frontier 第11回『ラーゼフォン』

※2011年4月発売号の原稿です。

【惹句】究極のSFロボットアニメ。美と神秘に彩られた鮮明な映像が、心をゆさぶる!

 2002年のTVアニメ『ラーゼフォン』は、BONESが『鋼の錬金術師』の直前に制作したオリジナル作品だ。パトレイバーやガンダム、仮面ライダーシリーズのデザイナー、『機神幻想ルーンマスカー』など漫画作品で知られるマルチクリエイター出渕裕の監督デビュー作である。ロボットアニメの主役はヒーローあるいは兵器という役割が主流だが、本作では「美と神秘」の要素を強調し、ラーゼフォンを芸術的な「楽器」として描いた点が新鮮だった。

 「奏者」と呼ばれるパイロットは神名綾人。ラーゼフォンは当初、人類側の兵器として侵攻勢力MU(ムウ)と戦う。だが、その真の能力は波動共鳴によって「世界の調律」を起こし、世界を望むかたちに変えることだった。この秘密を巡って対立が激化する。

 物語上のもうひとつの大きな仕掛けはSFラブロマンスである。主人公は時間の進み方が異なる空間に閉じこめられ、外の世界にいた元恋人・紫東遙とは年齢差ができていた。当初、遙は自分の正体を隠し、綾人の救出に尽力するのだが……。この「時を隔てた愛」というSF的なテーマが主人公の成長に絡んで、ドラマを盛りあげる。

 『十二国記』シリーズのイラストを担当した山田章博がキャラクターデザイン、『ガンダム0083』の佐野浩敏がアニメーションディレクター、後に『電脳コイル』を監督する磯光雄がデジタルワークスを手がけるなど、業界の名だたるクリエイターたちが、本作には集結して濃密な映像美をつくりあげている。後に『交響詩篇エウレカセブン』を監督する京田知己も本作の監督補佐(増井壮一と共同)を担当。劇場版『ラーゼフォン 多元変奏曲』が京田監督のデビュー作にあたる。

 劇場版はデジタル制作のメリットを活かし、TV版の素材を流用しつつ大胆なアレンジを加えている。特に遙の視点を際だたせて「もうひとつの物語」を見事に描きぬいた。TVと劇場版と同じテーマで異なるアプローチの2種類の『ラーゼフォン』があるわけだ。それぞれにある微妙な異同が響きあい、さらなる大きな共鳴と感動を生むという仕掛けである。今回のBlu-ray化で2本が同梱されていっしょに楽しめる意味は、非常に大きいと言える。

 TVシリーズとゲーム特典用に制作されたOVAは高画質HDリマスタリング技術によって24P化され、細部まで実に鮮明に見える。クリエイターたちの卓越した技が細部まで浮かび上がり、美的な調和をみせ、楽しみが深まる。そんなパッケージなのである。

【2011年3月31日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)