※2011年6月発売号の原稿です。
【惹句】海底から来た傲慢でカワイイ侵略者。イカ娘の魅力と破壊力が炸裂!
ここ数年、「このシーズンの新番組アニメはどれがオススメ?」という質問には答えにくくなった。1クール(11~13本)作品が急増、少ない話数に集中して勝負をかける分、予想外のヒット作が必ず出るからだ。この『侵略!イカ娘』も、そんな典型例である。
原作は安部真弘が「少年チャンピオン」に連載中のコメディ漫画。イカ娘とは、海洋汚染を続ける人類へ復讐をたくらむ深海生物だが、外見はワンピースを来た女の子である。しかし、最初の侵略拠点として“海の家れもん”を壊したのが大間違い。相沢姉妹に逆襲されたイカ娘は、海の家でこき使われる居候となってしまう……。
イカ娘は実に不思議で多面的な魅力をもった美少女キャラである。シンプルで幼く見える可愛さがある一方で、髪の毛が実は触手だったり口からイカスミを吐いたりして、「かわいいけど侵略者」という得体のしれなさや怪しい能力も見せつける。そして「○○じゃなイカ」「○○でゲソ」という独特の調子いい語尾は、Twitterに乗ってネット中に蔓延し、気がついたら本当にアニメファンは侵略されてしまった。
1回あたり3パートで展開されるショートギャグ満載の作品は、実に濃厚で爆発的に笑える。周囲のキャラはイカ娘以上にエキセントリックで変な行動をとりまくり、海岸での騒ぎを必ず大きくする。「ヘンな居候がやってきて家庭に入りこむ」というのはギャグ漫画の王道だが、キャラ立て全開でリズミカルな会話とテンポのいいアクションによって、全体のテンションを高く持ち上げているあたり、藤子アニメや『クレヨンしんちゃん』など生活ギャグアニメを多く手がけてきた水島努監督の真骨頂と言うべき演出力だ。
大笑いして油断していると、うっかり感動させられてしまうのも人気の秘密である。特に第5話Cパート「飼わなイカ?」は、胸に深く染みる号泣エピソード。この回を含む第3巻の初回仕様は、手のひらに乗るミニイカ娘フィギュアと収納BOXつきで、ファンとしての愛情が試される「踏み絵」になってて、その意味でも泣かされる。
HD制作作品なので、BDとしての情報量も満足だ。特にイカ娘の白いワンピースや水色の触手といった上品で淡い色使いと、ドタバタアクションが乱れず再生される再現性がいい。また、声優・金元寿子による傲慢かつ可愛いい声も、リニアPCMで原音のヌケの良さを響かせてくれる。ギャグアニメとしても人情ものとしても、全方位的に良くできた魅力的な必見の作品である。
【2011年5月31日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)