女王様のご生還 VOL.204 中村うさぎ

今回は「表現規制」からちょっと離れて、最近考えたことについて書こうと思う。

とある女性から「全然タイプじゃないしセックスしたいと思わない男性から強引に迫られると嫌と言えずについついやってしまい、その後で酷い自己嫌悪に陥って何日も落ち込みます」という相談を受けた。

で、その時の私の回答は以下のとおりである。



「セックスを特別なものと考えてるから自己嫌悪になっちゃうんじゃない? べつにセックスなんて外食と同じくらいに思えばいいのよ。あまり気の進まないレストランに付き合いで行ってやっぱり美味しくなかったってガッカリすることあるじゃん? でも、それって『やっぱ行かなきゃよかった』って後悔はしても、自己嫌悪にはならないし何日も引きずらないでしょ? セックスだって同じよ。当たり外れはあるし『やらなきゃよかった』って後悔することもあるけど、自分を責めて何日も落ち込むほどの失敗じゃないから。特別な人とやらなきゃいけない、愛がなきゃいけないって思い込んでるから、断りきれずにセックスした自分が不謹慎で不誠実だって思っちゃうんじゃない? でも食事と同じだと思えば、『あーあ、やっちゃった』で済む話なのよ。実際、食事もセックスもたいして変わらないしね」



これは私の本音である。

セックスなんてそんなにご大層なものじゃない。

我々は、特に女性たちはセックスを「愛する人とだけやる神聖で特別なこと」みたいに教え込まれることが多いから、好きでもない人とセックスしちゃうと自分が汚れたような気分になったり、ふしだらなダメ女だと自分を責めて落ち込むのだ。

特に「ヤリマン」とか「売春婦」を軽蔑する文化の人はそうだよね。

でも私は「ヤリマンいいじゃん」って思ってるし、そりゃまぁ子どもができちゃったりしたら困るけど、ちゃんと避妊してればセックスなんて軽々しくやっちゃっていいのよ、と考えてる。

しかし、これはあくまで私の個人的価値観であるから、「セックスは神聖なもの」と思いたい人はそう思っていればいいのだ。

誰にも強制するつもりはない。

ただ、その価値観のせいで苦しむのであれば、自分の価値観を変えるしかないんじゃない?と言いたかったわけだ。



で、この問答からずっと、私は「NOと言えない人たち」について考えていた。

つまり彼女の問題は、セックスに対する価値観云々ではなく、「断れない自分」に対する嫌悪なのかなと思ったからだ。

だが残念ながら、私はやりたくない相手からセックスを要求されても普通に「嫌だよ」と断ってしまうタイプなので、断れない人の気持ちが全然わからない。

自分を基準に考えてしまうから「嫌なら断りゃいいじゃん」と思ってしまうのだ。

そこで、問題をセックスだけじゃなく、他の事にも広げて考えてみた。

たとえば、強く勧められると断り切れず、欲しくもない商品を買ってしまう人たち。

これなら、私にも多少の心当たりはある。

が、それは自分の虚栄心のせいだと思っていた。

ケチだと思われたくなくて、つい財布を開いてしまうのだ。

でも、本当にそれだけだろうか?

セックスを断れない人と同様の心理がそこには働いてるんじゃないか?



セックスを要求する人も、商品を売りつけようとする人も、ともに強引で自己中である。

相手の気持ちより自分の利益を優先する。

相手が明らかに嫌そうでも、強く押せば自分の欲望が通ると考え、ぐいぐいと攻め込んでくるのだ。

一方、断りきれずに相手の意のままになってしまう人には「断ったら申し訳ない」という奇妙な罪悪感がある。

思えば、これは不思議な現象ではないか。

自分の要求をゴリ押しする人は罪悪感もなくのうのうと得をして、相手の気持ちを考えて押し負けした方が嫌な思いをして損をした挙句に自己嫌悪に苦しむなんて理不尽だ。

そもそも身勝手なのは向こうなんだから、「断ったら相手が傷ついたり失望するのではないか」などと心配してやる必要などないのである。

あなたのことを1ミクロンも考えてくれない相手に気を遣った挙句、自分を犠牲にするなんてバカげている。

何故、「断り切れない人々」は、ここまで過剰に相手の期待に応えようとしてしまうのか?



相手が凄んだり脅したりしてきたというのなら、まだわかる。

恐怖に屈するのは生き物の本能として理に適っているからだ。

が、たいていの場合、相手がにこやかで優しく親しげであるほど、人はNOが言いづらくなる。

つまり、「恐怖」ではなく「好意」に屈してしまうのだ。

たとえそれが偽物の好意であっても、笑顔を向けられると拒絶できない。

相手からの強制ではなく、まるで自分の意思であるかのように、自ら服を脱いだり財布を開いたりしてしまう。

まさに童話の「太陽と北風」だ。

こんな非合理な現象が起きるのは、おそらく人間だけであろう。

何故なら動物は、嫌な時はとっとと逃げたり頑強に抵抗したりするからだ。

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