氷川竜介のアニメ総合研究所 第31回『あしたのジョー2』(1981年作品)

【指令】『あしたのジョー2』激しく燃えて戦う生きざま、その秘密を探れ!

 たとえ大きな目標を失ったとしても、人は生き続けなければならない。『あしたのジョー2』(80)はそんなメッセージを感じさせるTVアニメだ。

 漫画史に残る原作の中から、主人公のボクサー矢吹丈がライバル力石徹の死から立ち直り、数々の新ライバルと対戦。そして世界チャンピオン、ホセ・メンドーサに挑む後半をアニメ化した。それは有名な「真っ白に燃えつきる」ラストシーンを描くための作品でもあった。

 では、これはジョーが破滅へ向かう絶望的に暗い作品なのだろうか? それは違う。光あふれる美しい風景に漂う詩情や、パワフルに拳を交える激烈な試合シーンの興奮。「静と動」が激しくせめぎあう映像にひたれば、それがよく分かる。どんな苦難が訪れても、矢吹丈はいつも前向きだ。瞳に炎の輝きを宿し、眼前にある強敵にぶつかって、ただひたむきに乗り越えようと、倒れても倒れても起き上がる。

 ジョーの試合には、姑息な計算による「勝敗」を越えたエネルギーが宿っているようにも見えてくる。それはなぜなのだろうか。心臓の鼓動も呼吸も、人間が生きる行為は一方向ではない。収縮と膨張の繰りかえしがあり、反転する一瞬は止まる。出崎統監督の「静と動」を強く対比した映像も、これと同じく生きたリズムを生むためのエネルギーを宿しているわけだ。

 試合結果だけを見れば負けかもしれない地点へ、熱く燃えるために向かうジョー。一度限りの力強い生きざまの興奮に、ぜひ身をゆだねて欲しい。

【ドラゴンレーダー】

 漫画の原作はちばてつやと高森朝雄(梶原一騎の別名)。アニメ版の監督・出崎統もジョーの印象を決定づけたクリエイターだ。『ジョー2』では止め絵とカメラワークの効果的な用法や、透過光・入射光などの撮影処理と、後にアニメ映像のスダンダー度になる技法を駆使。ジョーの心情を鮮やかに照らしだしている。

【2009年2月5日脱稿】初出:「スカパー ! TVガイド」(東京ニュース通信社)