女王様のご生還 VOL.262 中村うさぎ

名古屋を本拠地とする「猫町倶楽部」という読書サークルがある。

病気をする前だからもう10年くらい昔のこと、私はそのサークルの読書会にゲストとして招かれ、それ以来、何度か読書会や懇親会に参加して親交を深めた。

その後しばらく疎遠になっていたのだが、このたび久々にお声がかかり、「猫町倶楽部」でカフカの「城」を読む読書会を主催することとなった。

カフカの「城」を選んだ理由は、3年ほど前にこの作品を読み解くセミナーを佐藤優氏と一緒にやっていたのだがコロナで中断してしまい、中途半端に終わったのが心残りだったからである。

また新しいメンバーで、一から「城」を読んでみたい。

そんな思いで「猫町倶楽部」さんの読書会の場を借りることにした。



月に2回、隔週の木曜日に集まってくれた皆さんとzoomでやり取りしつつ、「城」を3章ずつ読み進めていく。

長編なので読み終わるまでに8回の読書会が必要だ。

隔週だから4ヶ月。

年をまたいでしまうな。

こんな計画を立てるとは、自分が来年も生きているという心づもりがあるからだろう。

いつ死ぬかわからないし、べつにいつ死んでもいいやと思いつつ、気づいたら来年の計画まで立てている。

なんだかんだ言って、私にとって「死」はやはりどこか遠い存在なのだと思い知った。

前回だって前触れもなく突然来たし、おそらく次回もそうだろう。

いつ来るかわからない来客の動向をあれこれ考えても意味がない。

来る時は、来る。そういうものなのだ。

そんな風に考えて、とりあえず生きてる前提で未来の計画を立てている次第である。



母を亡くしてからの父も生きるモチベーションを完全に失ってしまったらしく、二言目には「俺はあと2年で死ぬからな」と宣言する。

そんなに計画的に死ねるものかよと心の底でフフンと鼻で笑い、

「へぇ、自殺でもするつもり?」

「自殺はしないよ」

「じゃあ、どうやって死期をコントロールするのよ?人間は自殺でもしない限り、自分の思いどおりには死ねないよ」

「2年経ったら、俺は飯を食うのをやめる」

「はぁ?餓死するってこと?」

「そうだ」

「無理だね。お父さんが思ってるほど餓死ってのは簡単じゃないよ。賭けてもいいけど、絶対に餓えの苦しさに耐えかねて何か食べちゃうに決まってるね」

「そんな事はない!」

自信満々にきっぱりと言い放つ父であった。

この人、バカなのか?それとも幼稚なのか?

人間には生存本能ってのがあって、それは理性とか意志とかそんなものよりずっとずっと強いんだよ!

人間は絶対に本能には勝てない。

それを無理やり抑え込み、意志の力で餓死しようなんて、おまえは即身仏を目指す坊さんかよ!

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