今回の「女王様のご生還」は、昨日配信した「うさぎ図書館」の続きである。
できるだけ違う内容にしようと心がけてはいるのだが、ひとつのテーマを考え始めたらそれ以外の要素が頭から追いやられてしまうので、たまにこういう事をやってしまう。
申し訳ない。
昨日「うさぎ図書館」の原稿を書いた後で、チャーリー・カウフマン脚本の人形アニメ作品「アノマリサ」をアマプラで見つけてしまった。
2015年の作品だから、「もう終わりにしよう(2020年)」の5年前に公開されたものである。
さっそく昨夜観たのだが、これもまた「私と他者」の問題を扱った作品であった。
同じテーマをずっと書き続ける習性は私にもあるので、ますますカウフマンに親近感を抱いてしまう。
彼も私も「ひとつのテーマに取り憑かれ、壊れたレコードのように何度も何度も同じ曲を奏で続ける人間」なのだ。
オタクに多いよね、こういうタイプ。
さて、とりあえずは「アノマリサ」の内容を説明しよう。
主人公の中年男が講演の仕事でシンシナティの街にやって来るところから物語は始まる。
ところでこのアニメ、機内で隣に座った男やタクシー運転手やホテルの従業員などなど、主人公以外のすべてのキャラが同じ声優によって演じられているのだが、特に違和感があるのは昔の恋人や現在の妻といった女性たちの声だ。
彼女たちの声もその声優が担当していて、これがまた明らかに男の声だからオカマ感がハンパない。
観客は間違いなく「なんで女性の声も男なんだろう」と冒頭から首を傾げるわけだが、じつはこれが重要な伏線になっているのだ。
というのも、ふとした瞬間に主人公は、ホテルの中で異質な声を聞くからだ。
それは、女性の声(←女性の声優が担当している)だ。
主人公を取り巻く他者たちは老若男女問わずみんながみんな同じ男性の声なのに、ひとりだけ高く澄んだトーンで響く女性の声。
彼は夢中でその声の主を探しまくり、リサという名の女性を見つけ出す。
リサはこの世界の「アノマリー(異質なもの)」であり、それゆえに主人公はたちまち彼女に恋をする。
彼はリサに「君はアノマリサ(アノマリー+リサ)だね」と囁き、キスをする。
だがリサと一夜を過ごした後、彼はホテルの支配人から呼び出される。
支配人は「リサと付き合ってはならない」と言い、さらには「私はあなたを愛しているのです!」と縋り付いてくる。
主人公は慌てて逃げ出すが、隣の部屋の女性従業員たちも揃って例の同じ声で「リサはダメ!」「私にしなさいよ」「愛してるわ」と口々に叫びつつ詰め寄って来る。
と、ここで彼は目を覚ます。
どうやらこれは彼の見ていた悪夢だったようだ。
隣にはリサがいる。
「いやあ、変な夢だったなぁ」と彼は起き上がり、リサと共にルームサービスの朝食を取るのだが、スクランブルエッグを食べるリサの口元や音が気になって仕方ない。
「フォークを歯に当てないで食ってくれないか」「食べ物を口の中に入れたまま喋らないでくれよ」と、彼はリサにいちいち注文をつけ始める。
昨夜はあんなに魅力的だったリサの「異質さ」が、今朝は不快で仕方ないのだ。
リサはおどおどし、彼の言いつけにおとなしく従う。
そのうちに、リサの声が例の「男の声」に変わっていく。
朝食を食べ終わる頃には、リサは他の人々と同様、あの男の声で喋るようになっているのだ。
そんなリサに主人公はもう愛を感じない。
午後になって主人公は講演を始めるが、途中から話が脱線し収拾がつかなくなって失敗に終わる。
さんざんな思いで彼は帰宅し、同じ声で喋る妻と子と友人たちに迎えられる。
みんな、彼を愛している。
だが彼はちっとも幸せではない。
一方、リサは飛行機の中で主人公に手紙を書いている。
「あなたが名付けてくれた『アノマリサ』という言葉を調べてみたの。天国の女神の名前らしいわ。もちろん自分を女神だなんて思わないけど、ちょっと素敵でしょ?」
と、このような話である。
この作品を解読するには、以下の3つの疑問を解かなければならない。
「何故、主人公とリサ以外は全員、同じ男の声なのか」
「何故、主人公はリサに惹かれ、その後、手のひらを返したようにリサを不快に感じ始めるのか」
「何故、リサは途中から女性の声を失って、他の人々と同じ男声になってしまうのか」
むろん、観終わった時には、答はもう出ている。