女王様のご生還 VOL.273 中村うさぎ

私は家族愛の薄い人間である。

母が死んでも悲しまなかったし、残された父が本人の意志とはいえ、たったひとりで老いていく孤独を知りながら何も手を打とうとしない。

そりゃまぁ少しは心配するが、だからといって大阪の実家を頻繁に訪ねるでもなく、旅行に誘われても頑なに断り続けている。

父と旅行なんかしたら肉体的にも精神的にも疲弊して、HPもMPもゼロになるからである。

父を慰める気持ちより自分の身体の方が大事だ。



じつは昨日まで、夫のママとお姉さん一家が日本に遊びに来ていた。

夫の家族は仲がいい。

互いに気遣い、助け合い、暖かい日差しのような愛情に満ち溢れている。

たぶんこれが世間一般の家族愛ってやつなんだろう。

彼らを見ていると、自分には決定的に何かが欠損しているんだなぁとしみじみ感じる。

「人を愛する能力」みたいなものが、私にはないのだ。

自分がアンドロイドかエイリアンにでもなった気分である。



そんなアンドロイド中村であるから、人から家族に関する悩み事を聞かされてもピンと来ない事が多い。

家族に反対されて好きなように生きられないとか、家族の尻拭いで人生の大半を費やしてしまったとか、そんな話を聞くと同情はするものの「そんな家族、どうしてさっさと捨てちゃわないんだろ?」と不思議で仕方ないのだ。

この人たちはきっと、老いた父親から旅行に誘われれば、たとえ自分の心身を削ってでも応じるんだろう。

でも、なんで?

家族って自分より大切なものなの?

自分の人生は自分のものでしょ?

たとえ親であろうと私の選択や決断に干渉できないし、私だって彼らの人生に干渉する気はない。

お互い、好きなように生きればいいじゃないか。



私の父は「ひとりで餓死したい」と言っている。

何をバカな事言ってるんだよ、とは思うけど、彼がそうしたいなら気の済むまで断食すればいい。

どうせ餓死には辿り着けないと思うがな。

血の繋がった肉親である事よりも、自由意志を持つ独立した一個人である事の方が優先されるべきだろう。

と、アンドロイド中村はこのように考えるのであるが、自分の考え方が世間に批判されるであろう事も自覚している。

冷たいとか恩知らずとか自己中だとか、いろいろ言われるだろうけど、これが偽りなき本音なのだから隠す気もない。

どうぞ、批判してくれ。

どうせ欠陥だらけの人間だって事は承知しているし、そもそも会った事もない他者から愛されたいとも思わないので、何言われても平気だよ。

「世間」などという顔のない他者の集合体の意見など、私の人生には関係ないの。

ていうか、そんなものに振り回される気持ちも、アンドロイドには理解できん。

世間が私の人生に責任取ってくれるのか?

どうせ言いっ放しのやつらだろ。

私の人生の責任取るのは他ならぬ私自身なんだから、私の好きなように生きさせてもらいまっせ。

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