シャープ、戴社長からの3通のメッセージ ノンフィクション作家・立石泰則の「企業は人なり」第32号



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企業探訪 シャープ、戴社長からの3通のメッセージ

今年の4月2日、鴻海精密工業とシャープが資本提携の契約にサインした。

つまり、鴻海精密工業が正式にシャープの経営権を掌握したのである。そして8月13日、鴻海精密工業のトップ、郭台銘氏の右腕と言われる戴正呉氏がシャープの新社長に就任した。

社長就任以降、戴氏は社員に向けて3通のメッセージを送っている。しかもいずれのメッセージも、メディアに公開されている。それ以外でもシャープは従来と比べて「情報公開」には積極的である。

私が新生・シャープの変化を一番感じるのは、この点である。それは、先日開かれた2016年度第2四半期決算発表でのメディアからの質問に対する戴氏の態度にも表れていた。「言えること」「言えないこと」、そして「分からないこと」を明確に分けて、回答に臨んでいたことだ。

前経営陣のような出来もしないことを、さも出来るように言うことはなかったし、シャープの問題も的確につかみ、それを認めることも吝かではなかった。そのうえで、シャープの改革に何が必要で、何をやろうとしているかを分かり易く説明した。

では戴社長は、シャープをどのように再建・改革しようとしているのか。

その手がかりを3通のメッセージから探ってみようと思う。

第1回目のメッセージは「早期黒字化を実現し、輝けるグローバルブランドを目指す」というタイトルで、8月22日に発表された。

印象的だったのは、冒頭に《この出資は買収ではなく投資であり、シャープは引き続き独立した企業です。ですから、鴻海からシャープの組織の一員となるのは私一人としました》と明記していることである。

おそらく、メディアで鴻海とシャープの資本提携が「買収」や「身売り」などといった否定的な言葉で報道されたことに対する配慮であろう。

シャープ再建・改革の中心である社員の不安をまず取り除きたいと考えるのは、至極当然のことであるが、それがすぐに形にできるところが前経営陣との最大の違いである。こんなところにも、鴻海の決意の強さを感じる。

戴氏は、シャープ社長としてのミッションを具体的に提示する。

短期的には《一日も早く黒字化を実現するとともに、シャープを確かな成長軌道へと導き、売上・利益を飛躍的に拡大していくこと》であり、そのためには鴻海との大きなシナジーを生み出すことが不可欠だと訴える。

中期的には《次期社長となる経営人材を育成・抜擢するとともに、積極果敢にチャレンジする企業文化を創造すること》である。

ではその「企業文化」とは何かについては、戴氏は明言していないが、次に続く文章から意図することが想像できる。

《長年にわたり受け継がれてきたシャープの良さはこれからも大切に継承していくということです。早川創業者の“まねされる商品を作れ”の精神や、経営理念や経営信条など、「創業の精神」は引き続き根幹となるものです》

つまり、新生・シャープの拠り所は「創業の精神」であることに変わりはないと宣言しているのだ。



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