ランダム性が人を惑わせる/田渕直也のトレードの科学 Vol.005



ランダムは本当にランダムなのか

前回の最後に、「次回は、バブルやクラッシュの話をします」と書いていましたが、話があちこちに飛ぶのを避けるため、今少し市場の効率性とそれによって生じるランダム性についての話を続けさせていただければと思います。ランダム性の中にはトレードの期待リターンをプラスにする術は存在しません。市場の非効率的な部分、つまりランダムではない動きに注目していかなければならないのですが、そこに行く前に、もっとランダム性についての議論を深めていくべきだと思いました。申し訳ありませんが、もうしばらくお付き合いください。

そもそもランダムというのは、簡単なように見えてとても奥深い概念です。

ランダムは、サイコロを振って1~6のいずれかの目が出るというような偶発的な現象です。我々の身近にいくらでも見られるありふれたものですよね。全然奥深くないじゃないか、と思われる方も多いかもしれません。

でも、ランダムがなぜ、どのようにランダムなのかはとても難しい問題なのです。

ちょっと原理的というか、哲学的な話になるかもしれませんが、その点についてあらかじめ断っておくと、実は偉大な投資家や金融の専門家には哲学論争が好きな人がとても多いのです。ロバート・ルービンやアラン・グリーンスパンもそうですし、ヘッジファンドの帝王ジョージ・ソロスに至っては、本当は哲学者になりたかったといっているほどです。物事の本質に対する探究心が旺盛ということでしょうね。

さて、ランダムについてですが、ランダムには実は二種類あります。見せかけのランダムと真のランダムです。

「見せかけのランダム」は、サイコロの目がまさにそうですね、サイコロの材質や重心、空気抵抗、サイコロを振りだすときのスピードや角度、サイコロが落ちる台の反発力や摩擦など、ありとあらゆるすべての情報を厳密に知り、すべてを考慮に入れた精密な計算を瞬間的に行うことできれば、実際に目が出る前にそれが分かるはずです。

現実の人間には、そんなことは不可能なので、人にとってはサイコロの目はランダムにしか決まらないのですが、もし全知全能の存在がいれば、それはランダムではなく予測可能ということになるはずです。これができるのが「ラプラスの悪魔」と呼ばれる架空の存在です。

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