行動ファイナンス概論(1)/田渕直也のトレードの科学 Vol.015



人の直感的な判断には偏りがある

行動ファイナンスによって明らかになるのは、人間がいかに特定の方向に間違えるのかということです。

これからご紹介する一つ一つの話には、経験的によく見られるものが多いかもしれません。「そんなことは、なんとなく前から分かってたよ」と思うことも多いでしょう。でも、行動ファイナンスが教えてくれる本当のことは、人間の直感的な判断にはたいてい何らかのバイアスがかかっているのだということです。

たとえば「アンカリング効果」と呼ばれるものがあります。船の錨を意味するアンカーからきている言葉で、何らかの初期情報に判断が引きずられることを示しています。これもいかにもありそうなことですよね。

たとえば、何人もの人を集めてある商品の価格を当てさせるという実験をするとします。実験に先立って回答用紙に自分の社会保険番号(日本だったらマイナンバー)を記入させると、その番号が大きい人ほど高い価格を予想する傾向が生まれるのです。

本来、価格の予想には何の関係もないはずの数字をちょっと頭に思い描いただけで、判断が引きずられるわけです。そして、当然のことながら本人はそのことに気づいていません。

株式市場でも、アンカリング効果は様々なところに顔を出しているように思います。

いわゆる大台(日経平均20,000円とか)が意識されるのも、切りのいい印象的な価格が達成されると、それが投資家の判断に影響を与えると考えれば意味のないことではありません。

また、株価の変動は、一定のレンジ内で上下する時期と、それを突き抜けて別のレンジに移っていく時期に分かれます。一定レンジ内で上下する時期は、その価格帯にアンカリングされていると考えることが出来ます。多少潮に流されても、錨につなぎ留められて、元の場所の近くをうろうろするだけです。

しかし、皆が成長企業だと思って割高な価格にアンカリングされていた株があったとして、その会社が成長企業だと皆が思っているという前提が崩れてしまうと、錨が外れ、新たに投錨できる場所が見つかるまで漂流を続けることになるわけです。

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