行動ファイナンス概論(2)/田渕直也のトレードの科学 Vol.016



勝者(盛者)必衰の理(ことわり)

トレードをしていくうえで絶対に覚えておくべき心理バイアスがあります。それは、自己奉仕バイアスといわれるものです。

簡単にいえば、成功は自分のおかげ、失敗は自分以外のせい、と考えるバイアスのことです。

短期的なトレードの成功のすべてではないにせよ大半は偶然によってもたらされます。でも、人はそういう風には感じません。偶然の役割を過小評価し、成功の要因を自分に求めるのです。

本当はたまたまであっても、勝ちが何回も続くと、「俺(わたし)はなんて才能があるんだろう」と感じるようになります。これは誰にでも必ず当てはまることで、例外はありません。かくいう私も、うまくいくトレードが続くと、沸き起こる自信を抑えるのがとても難しくなります。

こうしたバイアスは、勝率が高いトレードのやり方を採用する場合の危険性にもつながります。

すでに述べた通り、勝率の高いやり方というのは、基本的に利益の幅が小さく、損失の幅が大きくなる傾向があります。ですから、長期的なリターンをプラスにするためには、勝率×利益の幅-(1-勝率)×損失の幅をプラスにすべく、「損失の幅/利益の幅」の比率が勝率の高さ以上に大きくならないように細心のコントロールをしていかなければなりません。

でも、実際にこうした戦略をとっていると、自分でも気が付かないうちに心理面での変化が起きるのです。単に勝率の高いやり方を採用しているから勝っているだけなのに、実際に勝率が上がってくると、自分が正しく賢いことをしていると感じるようになっていきます。そうすると、自分に対する過信から規律が緩み、取らなくてもいいリスクをとったり、適切な損失コントロールを怠ったりしてしまいます。それによって、当初に思い描いていたよりも「損失の幅/利益の幅」の比率が大きくなって、勝率の高さは簡単に消し飛ばされることになります。

そして、長い時間を経た後に、通算成績が大きくマイナスに傾いていることにようやく気が付くわけです。それは、当初の戦略が間違っていたからではなく、途中で規律が緩んだことによって戦略を貫徹できなかったことが原因です。しかし、そのことに自分で気が付くのは非常に困難です。

勝率が高く、しかも期待リターンがプラスになるやり方というものは間違いなく存在すると思います(具体的な事例についてはまた取り上げます)。でも、実際に勝ちを重ねることで起きる心理面での変化まで考えなければ、それが本当に有効な戦略だと言うことはできません。

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