常勝伝説のウソと誠/田渕直也のトレードの科学 Vol.034



常勝トレーダーのその後はどうなったのか

投資の世界では、いつの時代にも、信じられないくらいの勝率を誇る投資家や投資手法の話が出てきます。「絶対に勝てる方法教えます!」とか、「安全確実でリターン〇%!!」というような詐欺まがいの話のことではありません。「私(もしくは誰それ)は、これこれのやり方で実際に素晴らしい成績を残した」というような話です。

こうした事例に対するアカデミックな回答は、「それはたまたまである」というものです。

この「たまたま」は、恐らくすべての事例に、程度の差はあっても当てはまります。

たとえば、ジョン・ポールソンやデビッド・テッパーの大成功事例は、もちろん成功の要因を上げることは可能ですが、「たまたま」の幸運も大きく作用していることは間違いありません。

一方で、すべてを「たまたま」で片づけることも難しいでしょう。

もっとも、人は「たまたま」の影響を無視し、因果関係ですべてを捉えたがるので、これは改めて指摘するまでもないかもしれません。

さて、私がまだ駆け出しのころ、常勝トレーダーとして名をはせていたのが、ラリー・ウィリアムズという人です。「ウィリアムズの%R」というオシレーター指標の開発者としても有名ですね。当時、勝率8割を超えるスーパートレーダーというふうにいわれていたと思います。

偶然が支配している相場の世界で、なぜこんな高い勝率を残せるのだろうと私はとても不思議でした。でも実は私も、ごく短期間(1年とか)なら、ウィリアムズ並みの勝率を残したことがあります。そのとき、私は相場の奥義をつかんだ気になりました。もちろん、それは長続きしませんでしたが。

さて、ウィリアムズはその後どうなったのでしょうか。

実際に彼の投資成績を追いかけることができなかったので、正確なことはわかりませんが、いまだに名前が通っていることからすると、恐らく通算でもかなりいい成績を残しているものと思います。すべてがたまたまではなかったということでしょうね。その一方で、その後は負けが込んだりする時期もあって、通算勝率はさすがに8割超という具合にはいかないようです。本当かどうかはわかりませんが、どこかのサイトで平均して6割超というような記述があったように記憶しています。

それらから推測するに、ウィリアムズはトレードで「たまたま」以上に勝つことのできる何らかのパターンをつかんでいたと考えることができる一方で、それでも勝率は6割がせいぜいだったということです。

常勝トレーダー、ウィリアムズの事例は、言葉通りの意味での常勝などありえないことを示唆しています。

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