トレンドフォロー戦略(2)~成否を分けるポイントは何か/田渕直也のトレードの科学 Vol.029



うまくいっているときは利益確定を急がない

前回は、自分のポジションとは逆方向に相場が動き始めたとき、いかに早く脱出できるかどうかが重要だという話をしました。その一方で、たとえばEU離脱国民投票の前に試しにポンドを売ってみたら、思いもかけずに離脱派が勝利してポンドが大きく下がり始めたというような場合には、とにかく利食いを焦らないことが大切です。

もちろん、これは「言うは易く、行うは難し」の典型で、相場が大きく動くときにフェイバーなポジションを持っていることは、実は結構怖いものなのです。

とくに急落相場では、大きく下がっては急反発し、また大きく下がって、という具合にジェットコースターのように激しく上下しながら、結果的に大きく値を下げていきます。後から見れば、ずっとショートポジションを維持していたら大儲けできたじゃないかとしか思えないのですが、その渦中にいるときにはそんな余裕はありません。「今は儲けが出ているけど、相場が急反発して利益が吹き飛んだらどうしよう」という焦りや、相場のスピードに対する恐怖などがないまぜになって迫ってきます。

実に厄介なことに、相場が急反転して、いったん得たはずの利益が失われ、元の木阿弥になってしまうケースはたしかにあります。

2010年5月6日、米国の株価指数はわずか数分間で9%も値下がりしました。これはとてつもない急落劇です。でも、さらにその数分後、今度は株価が急反転し、瞬く間に元の水準近くに戻っていきました。“フラッシュ・クラッシュ”と呼ばれる出来事です。(フラッシュ・クラッシュはHFTと呼ばれるアルゴリズム取引が引き起こしたものとみられていて、その点については回を改めて見ていきたいと思います。)

相場の急変動に乗っていこうとするときに直面するのは、まさにこういう急反転のリスクです。

でも、すべての可能性を気にしていたら大きく利益を上げることなんて出来ません。もちろん、色々な可能性を事前に考えておくことはとても大切なことですが、最後は確率的に何がベストなのかを考えていくしかないのです。

少なくとも、イギリスのEU離脱などのように、今までの前提を覆すような、しかも大方の予想を裏切るような事態が起きたときには、相当程度の値動きが続く可能性が高く、相場が短期間で元の木阿弥に戻る確率はとても低いはずです。であれば、その流れに乗った場合には、軽々に利益確定などせずに、いけるところまで行くという気持ちで恐怖心を克服する必要があります。

もちろんフラッシュ・クラッシュのときに同じようなことをしてしまったら、場合によってはかなりの下値で売ってしまって、その後の急反転で大きな損を抱えることになるかもしれません。

フラッシュ・クラッシュは、後にある程度の原因が究明されていますが、起きた当時は原因不明のトリッキーな価格変動だったので、こうした理解不能な動きにはついていかないようにするべきと考えることもできます。でも、こうした動きに引っかかって何回かに一回は失敗してしまったとしても、それは仕方のないことだと考えるべきでしょう。もっとも、そのときに致命的な大きな損失を被らないようにすることはもちろん大切です。

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