勝率と利益の大きさとのトレードオフ/田渕直也のトレードの科学 Vol.010



投資の必勝法“マルチンゲール”

期待リターンは、近似的に

勝率×買ったときの平均利益額-(1-勝率)×負けたときの平均損失額

という式に変換できるという話を以前にしました。

そして、勝率は操作をすることが出来ますが、それが必ずしも期待リターンを押し上げることにはつながらないということでした。そのことを端的に示すために、投資の“必勝法”といわれるマルチンゲールを例にとって説明しましょう。

話を簡単にするために、ある株式の価格が一日ごとに必ず100円上がるか、100円下がるか、どちらかになると仮定します。この仮定はあまりに単純化しすぎていると感じられるかもしれませんが、二項モデルといわれていて、ランダムウォークのもつ性質を簡単にシミュレーションできるものです。

まず、現在の株価が10,000円として、その値段で100株を購入します。

翌日(最初の日をTとして、T+1日)、株価が上がったら保有株を売却して100株×100円=1万円の利益を確定します。

株価が下がって9、900円となった場合には、株は売却せず、保有株が二倍になるように新たに100株をその値段で買い足します。翌日株価が100円上がって10,000円に戻ったときに、全保有株(T日に10,000円で買った100株と、T+1日に9,900円で買った100株合計で200株)を売却してトータルで1万円の利益が出るようにするためです。

翌日の翌日(T+2日)に株価が上がったら、その通りに利益確定をして終わりです。株価が続落した場合には、やはり保有株が二倍になるように新たに200株を9、800円で買い足します。

翌日以降もこれを繰り返していきます。つまり、株価が上がったら保有株を全部売って1万円の利益を確定し、株価が下がったら保有株が二倍になるように買い足して、翌日の株価上昇を待つわけです。

こうした手法がマルチンゲールと呼ばれるものです。

この手法は、高い確率で利益を得ることを可能とします、その一方で、株価が下がり続けると保有株をその都度二倍にしていかないといけないので、投入する資金量は雪だるま式に増えていき、保有株の含み損もまた雪だるま式に増えていきます。

もし、投入できる資金量が無限にある場合には、世界が終わらない限り株価が一日も上がることなく永遠に下がり続けることはないでしょうから、いつの日か株価が上がったときに1万円の利益を確定できることになります。もっとも、個別株の場合は株価が下がり続けてそのまま破たんしてしまう危険性もなくはないので、日経平均先物や指数連動型ETFを対象とするのがいいでしょう。

つまり、勝率は厳密には100%にはなりえませんが、限りなく100%に近づけることは出来ます。これが、“必勝法”といわれる所以ですね。

でも、投入できる資金量が無限大ということは現実的にはあり得ないですよね。しかも、この例では利益は1回あたり1万円にすぎないので、たとえばウォーレン・バフェットのような大金持ちであったとしても、1万円のためにいくらでも資金をつぎ込むということをやるはずはありません。

それでは、この手法の期待リターンはどのくらいなのでしょうか。

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