リスク・プレミアム投資/田渕直也のトレードの科学 Vol.025



リスク・プレミアムはどこに生まれるか

リスク・プレミアムは、プロスペクト理論で示唆される人間の損失回避傾向から生み出されるものでした。

その言わんとするところは、リスク性資産の価格は、経済合理的な価格よりも安くなる、というものです。

損失回避傾向は、人がリスクを強く意識するときに、より強く現れることになります。

社債投資でいえば、安全性の高い高格付の社債はリスクが小さいので、損失回避傾向があったとしても、そもそも大して割安にはなりません。それに加えて、そうした社債に投資する際に投資家はリスクをあまり意識しないので、損失回避傾向自体が抑えられている可能性があります。だから、高格付の社債に割安さを期待することは普通できません。

これに対して、ジャンクボンド(“くず”債券)と呼ばれる高リスクの債券ならば、リスクが大きいので価格が割安になると考えられます。とくにこうした社債に投資する際には投資家もリスクを強く意識せざるを得ないので、損失回避傾向がより強まり、価格の割安さは増すはずです。

ですから、プラスの期待リターンを得ようと思えば、安全性の高い債券ではなく、リスクの高い債券を買わなければなりません。もっとちゃんと言えば、投資をする際にリスクが気になるような債券こそが投資すべきものだということになります。

“不良”債権は外資系には“優良”資産だった

1990年代、日本の金融界は巨額の不良債権に苦しんでいました。結局長い時間をかけて、多くの不良債権が処理されていくのですが、この過程で、外資系の金融機関や投資家たちがかなりの利益を上げたとみられています。

それはなぜかというと、不良債権を非常に割安な価格で購入できたからです。

不良債権は“不良”であるがゆえに、それに投資しようという投資家がほとんどいません。

でも、不良債権だからといって、全くの無価値なわけではなく、多少は回収が可能です。日本の不良債権の多くには不動産担保がついていたので、不動産価格の低下によって債権額全額の回収は無理だとしても、売却価格相当分は回収できるわけです。

ですから、そうした回収価値に見合った値段で不良債権を購入すれば、リスクは決して小さくはないかもしれませんが、決して悪い投資ではありません。

でも、そんなことはお構いなしに、“不良”な資産には投資しない、できないという投資家が多いので、不良債権は予想される回収価値よりも低い価格でしか取引されないことになります。

それでもアメリカでは、「リスクが高くても、それを上回るリターンが期待できるのであればよい」と考えるカルチャーがしっかりとあるので、こうした資産に投資をする投資家が多少なりともいるのですが、日本にはほとんどいないので、そこに絶好の機会が生まれるのです。

これもまた、典型的なリスク・プレミアム投資です。外資系金融機関や不良債権専門の投資家たちは、割安な価格で不良資産を買い取り、その回収をきっちりと行うことで大きな利益を上げました。“不良”債権は、豊富なリスク・プレミアム込みの割安な価格で購入できる投資家にとっては、優良資産に他ならなかったわけです。

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