
相場は数字の世界
私がまだ駆け出しのころ、私が勤めていた銀行は大胆な経営戦略を打ち出しました。日本にはまだ存在していなかった米国型投資銀行への転換です。結局、その経営戦略は成功しなかったのですが、そのときにモデルとしたのがバンカーズ・トラストという銀行です。今はドイツ銀行グループに買収されて存在しない銀行ですが、当時は世界で最も先進的な銀行の一つといわれていました。
そのバンカーズのトレーディング部門のトップだった人が来社して、もちろんペーペーだった私が会えるわけもなかったのですが、その人の話として伝わってきた話があります。
トレーダーとして成功するためのポイントは二つある。第一に数字に強いこと、第二に好きであること。こう語ったというのです。
シンプルすぎる答えですが、この二つはトレーダーとしての出発点でたしかに必要になる要素だと思います。
相場の世界は数字の世界です。経済状況も、すべて数字で理解していかなければいけません。もっとも、「数字に強い」というのは「数学に強い」とは違います。もちろん数学に強ければそれに越したことはありませんが、それは必須条件ではありません。
思い起こすと、私の周囲にいた優れたトレーダーたちはみな数字に強かったですね。「あのときは経済指標がいくらいくらで、株価指数は何ポイント下がって、為替レートはどう変動した」なんて言う具合に、いろんな数字がたちどころにすらすらと出てくる感じです。
もっとも、PCなど情報機器の発展で。個人の頭の中に膨大な数字情報を正確に詰め込んでおく必要は薄くなっています。
そうだとすると、求められるポイントは、「数字の羅列に恐れを抱かない」ということになると思います。
日本のGDPが約500兆円(最近少し上方修正されました)とか、国債残高約1,000兆円強とか、そんな金額を実感することは誰にも無理なのですが、こうした数字を頭の中で扱えるようにすることは誰にも可能です。そのためには、それらの数字が持つ意味を常に意識することが大切です。
数字の羅列はただ漠然と眺めるだけなら数字の羅列のままですが、その数字がどのような意味を持つのかをいつも気にするようにしていれば、おのずと数字自体も頭の中に馴染んでくるはずです。
マーケットでいえば、大きなイベントがあったときにドル円がどのくらいの幅で動いたのか、過去の事例をすべて覚えていなくても、過去データを気軽に参照する癖をつけておけば、「こういう事態が起きたら為替レートはこのくらいの幅で動くことがありうるんだ」とイメージすることができるようになっていきます。
「数字に強い」ということは、そうしたことの積み重ねだと思うわけです。