10号御料車映像に見るVRの魔性  [VR研究者による鉄道話]

 前回予告の10号御料車車内のインタラクティブ映像を下記サイトに掲げておくので、体験していただければ幸いである。

http://www.cyber.t.u-tokyo.ac.jp/~digitalmuseum/WebGoryousya/walkthrough.html

 FirefoxおよびGoogle Chromeにて動作することを確認している。それ以外のブラウザーでは正常に表示されない場合があることをご了承いただきたい。画面の右下にある矢印をクリックしてもらうと行きたい方向に行ける。

 入口から入るとまず、展望室である。ここにはソファが9脚(1人用8脚、2人用1脚)並んでいる。通常の御料車だと御座所ということになるのだろうが、外国賓客用ということもあってか、見晴らしがよい。窓の大きさは当時としては最大級である。窓上の幕板部には、鶴の飛ぶ様を刺繍された織物が見える。天井の模様も見事である。つきあたりに見えるのが、綴織の「菊真垣」である。十分な解像度でお見せできないのが残念なところである。菊真垣の左側に進むと長い廊下に出て、右側に個室(御休憩室、御化粧室、供奉員室など)が並ぶ。いちばん奥側の御化粧室の扉には、ぞんざいな字で“MEN”と書かれているが、この件については改めて述べよう。

 10号御料車の製造は大正11年であり、木造車両の最後の時代にあたる。ちなみに大正12年に製造された最後の木造展望車オイテ27000は10号御料車によく似た外観で、東京-下関間の特別急行1、2列車(のちの特急「富士」)に使用された。当時は、この展望車にしても特権階級しか乗れなかったという。

 読者はこのVR画像にフラストレーションを覚えるであろう。十分な解像度が得られていない。著者も同じ思いである。前回述べたように、この画像は8K程度の解像度を持つから、通常のセンスでいえば、相当な高解像度画像である。しかしそれをVR的に眺めるために全天周に引き延ばすと、こういうことになってしまうのだ。我々の視覚は大変な解像力を持っている。満足のいく画像を得るには、さらに高度なVR技術が必要である。VRというメディアの魔性がここに垣間見える。どうやって解決するかは研究中なので、その進捗については折に触れて発表していきたい。