■仏・韓大統領選・トランプ政権の変化・円相場の行方・セキュリティ関連株等
●マクロン新大統領には右派勢力を抑えるために力を尽くす責務がある
5年に1度のフランス大統領選挙では第1回投票で過半数を取った候補者がいない場合、得票の上位2人による決選投票となります。今回は4月23日の第1回投票を経て、5月7日の決選投票で中道系独立候補のエマニュエル・マクロン氏(得票数2075万3798票)が極右政党・国民戦線の党首であるマリーヌ・ルペン氏(同1064万4118票)を破って大統領に選ばれました。
この結果にはやはりフランス国民の間に浸透している自由・平等・博愛というフランス革命の精神が大きかったのです。ルペン氏が大統領になればその精神が否定されます。だから、フランス革命の精神の否定はフランスの伝統にそぐわないという判断から有権者が動いて、マクロン氏が勝利したのでした。
マクロン氏はENA(フランス国立行政学院)を卒業後、ロスチャイルド家のフランス部門で投資銀行家として名を上げました。オランド政権では経済産業デジタル大臣を務めたものの、議員の経験はありません。昨年4月に政治運動「前進」を設立し、それを基盤にして大統領選に臨みました。39歳のマクロン氏は、戦後では最も若い大統領となります。
さて、第1回投票に立候補したのは11人だったのですが、有力候補とされたのはマクロン氏とルペン氏のほか、元首相で共和党(中道右派)のフランソワ・フィヨン氏、極左の政治運動「不服従のフランス」を立ち上げたジャン=リュック・メランション氏でした。今回の大統領選で最大の焦点となったのは、ブレグジット(イギリスのEU離脱)が起こったなか、フランスはEUにどう対応すべきかということです。それで有力候補4人のうちマクロン氏とフィヨン氏が親EU、ルペン氏とメランション氏がユーロ圏離脱を前提とする反EUの立場を打ち出しました。この4人の争いは拮抗しており、第1回投票の上位2人がルペン氏とメランション氏になれば、決選投票でどちらが大統領になってもフランスによるユーロ圏離脱に現実味が出てきます。となるとヨーロッパの金融市場が打撃を受けるのは必至ですから、投資家たちはルペン氏とメランション氏による決選投票を恐れていました。
やはり第1回投票では4人の得票率がそれぞれ19.58%から24.01%までの間に入るという接戦となり、結局、決選投票に進んだのは親EUのマクロン氏と反EUのルペン氏でした。この時点で、両氏の戦いならマクロン氏が勝つという世論調査も出ていたため、投資家たちもひとまず胸をなで下ろしたのですが、実際の結果も世論調査の通りとなったわけです。
ただし決選投票でのルペン氏の1000万票を超える得票は予想以上に多かったといえます。これは、特に経済政策で厳しくコントロールしようとするEUに対する反発がそれだけ強いということにほかなりません。
ともあれルペン氏が敗北し、今回はフランスのユーロ圏離脱は回避されました。こうして一応、フランス大統領選が保護貿易への歯止めになったことでヨーロッパにおける右派勢力の勢いも削がれました。しかしフランス国内では、依然としてEUへの反発は強いのですから、保護貿易への流れが止まったと断言することはできません。
とすれば、自由貿易を守るという意味でマクロン新大統領をはじめとするフランスの政治指導者たちは今後、右派勢力を抑えていくために力を尽くす責務があります。言い換えれば、右傾化に取って代わるだけの新しい路線をフランス国民全体を巻き込んでつくっていかなければなりません。保護貿易を主張する人たちは、フランス国内の国際競争力のない産業が打撃を受けるということで自由貿易を嫌悪しているのですが、もはや保護貿易主義の政治によって国内の国際競争力のない産業を守るべきではないし、守れるはずもないのです。したがってこれから、フランスの政治指導者たちには、「自由貿易に耐えなくてはならない」とフランス国民に直接訴えかけていくという取り組みも不可欠になります。