「2017年はどうなる?(上)」~激動の時代を生き抜く知恵~俣野成敏の『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』実践編 Vol.38

「2017年はどうなる?(上)」

~激動の時代を生き抜く知恵~

こんばんは。俣野成敏(またのなるとし)です。

2002年7月、アメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)から1本のレポートが発表されました。それは「デフレ防止策について:1990年代の日本の経験からの教訓」と題された研究報告書でした。アメリカは、将来自国に起こるかもしれない経済危機に備えようと、日本のバブル崩壊について検証していたのです。

そのレポートは、次のような結論になっていました。

「デフレを事前に予測するのは難しいかもしれないが、量的に十分な緩和策を実施して、景気刺激策を素早く行うことによって、デフレを最小限に抑えられる可能性は多分にある。・・・仮に景気刺激策が強すぎて、インフレを招く事態となっても、後から是正することは可能である。一方、景気刺激策が弱いために、一度デフレに陥れば、その後の金利政策の効果は大きく損なわれる可能性が高い」

やがて、アメリカはこのレポートに書かれていた事態に実際に遭遇することになります。それが、2008年9月に起きたリーマン・ショックでした。もともと、2008年7月時点のアメリカのインフレ率は5.6%でした。それが同年12月には0.1%にまで下がり、翌年さらに8ヶ月間連続のマイナス成長となります(リーマン・ショックはVol.10「日本と世界の金融事情(上)」を参照)。

ですが、この時のアメリカの対応は素早いものでした。かつての日本が、まだ余力のあるうちに十分な景気対策を行わなかったために、長いデフレ状態に陥ったことを、FRBは理解していました。彼らはリーマン・ショック発生からわずか2ヶ月後には、QEと呼ばれる第1回目の量的緩和政策を発動。リーマン・ショック時点では2%あった政策金利も、年末にはゼロ%〜0.25%にまで引き下げられます。QEは合計3回行われ、総額4兆ドル(約450兆円)規模のお金が投じられました。

※量的緩和政策・・・世の中に出回るお金の量を増やすこと

この思い切った政策によってアメリカは持ち直し、2015年12月には政策金利が0.25%〜0.5%へと引き上げられ、昨年(2016年)12月に、再び利上げ(0.5%~0.75%へと0.25%の引き上げ)が行われました。

アメリカが「100年に1度の危機」と言われた経済危機を乗り越えることができたのは、過去に学び、未来に向けて備えていたからです。日本も、アメリカのように再び立ち上がる日がやってくるのでしょうか?



【Vol.38『2017年予測(上)』目次】

〔1〕イントロ:さまざまなところで軋轢を生むアメリカ

〔2〕本文:「2017年はどうなる?(上)」〜激動の時代を生き抜く知恵〜



1、2017年はどんな年になるのか?

◎投資を検討している人が注意すべきこと

◎時代はポピュリズムへと流れる



2、アメリカに振り回される世界

◎「トランプ大統領のアメリカ」はどう動く?

◎FRB VS トランプの行く末は?



3、強いアメリカを目指して

◎「トランプ政策」はどこまで実現できるのか?

◎アメリカ国内にお金を呼び戻すための秘策

◎海外に対してどこまで強硬手段に出るのか?



4、内憂外患の中国を待ち受けるもの

◎中国が抱える4つの問題点

◎「ブラック・スワン」とは何か?



5、危機に瀕するユーロ

◎ヨーロッパの見通しはどうなのか?

◎イギリスのブレグジット、フランスの選挙はどうなる?

◎ドイツにとっても正念場の一年



6、2017年の投資環境における注目ポイントとは

◎金融の専門家が今年、目をつけている分野とは?

◎経済の根幹をなす3つのモノ



7、ゲームの駒が黒から白へと変わる時



★本日のワンポイントアドバイス☆★

2017年の予測キーワード3+2

〔3〕次回予告(予定):「2017年はどうなる?(下)」〜変わりゆく日本で生きる道〜 

〔4〕今週のQ&Aコーナー:「起業する覚悟を決めた瞬間」ってどんな時?

〔5〕今週の気になるトピックス:アマゾンローンチパッド ベンチャー企業のインキュベートとなるか?

〔6〕編集後記:2020年を境に大量の中小企業が日本から消滅する?!





◆〔1〕イントロ:

さまざまなところで軋轢を生むアメリカ

アメリカの中央銀行であるFRBが至上命令としているのは「物価の安定」と「雇用の最大化」です。

雇用の最大化について、今年(2017)年2月3日に発表されたアメリカの雇用統計結果によると、非農業部門雇用者数がプラス17.5万人予測に対してプラス22.7万人という大幅増の結果となりました。失業率は予想4.7%に対して4.8%と若干悪かったものの、FRBの見解によれば、「ほぼ完全雇用の状態にある」とされています。

物価の安定に関しては、去年の12月時点のインフレ率(物価上昇率)が対前年2.1%でしたが、FRBとしては2%程度に収めたいという思惑があることから、今年は複数回の利上げを行うと見られています。

ちなみに、利上げとは政策金利を上げることを指し、「中央銀行が民間の金融機関に融資する際の金利を引き上げること」を言います。こうすることによって、必然的に銀行の貸し出し金利も上がることになるため、企業も資金調達がしづらくなり、景気が過熱しすぎないようにする効果があるとされています。ただし、金利を急激に引き上げると、景気が一気に冷え込む危険性もあります。

現在、未曾有の経済危機から立ち直ったことを、世界に印象付けたいという思惑があるアメリカ。FRBが利上げをする目的とは、インフレ対策以外にも、大量に供給しすぎた米ドルを抑制し、次なる経済危機に備えて利下げする余地をつくっておきたい等、いくつかの理由が考えられます。

ところで、米ドルの供給が少なるということは、ドル高となることを意味します。お金もモノと同じで、需要と供給の関係により、数が少なくなればその分、価値が上がります。つまり少ないお金でたくさんモノが買えるということですから、本来はいいことのはずですが、対外貿易を行う際には、モノを売っても入ってくるお金が通貨安の時に比べて少なくなるため、国の通貨政策がしばしば貿易国同士の間で問題となります。

特に、世界一の経済大国であるアメリカの影響力は大きく、利上げによって価値の上がった米ドルを求めて、新興国に流れていた資金がアメリカへと向かうようになります。それによって考えられる影響の一例として、今年は新興国の首都の不動産物件価格などが相対的に下がるかもしれません。新興国の不動産購入をご検討されている人にとってはいいことかもしれませんが、その国にとっては経済が抑制される一因となる可能性があります。

このように、アメリカの経済政策は他国の経済をも左右するため、FRBの挙動は世界中から注目されています。去年も、いつアメリカが利上げを行うかと、FRB関係者の言動に世界が大きく反応したものです。ですから、時には他国の利害と対立することになるワケですが、FRBの政策に異を唱える者は国外だけにとどまりません。実は、国内にも対立勢力は存在します。それが誰かというと、アメリカ大統領のトランプ氏です。

かつては一致協力して経済危機を乗り切ってきた政治と金融の2大トップですが、現在はその思惑にズレが生じているのです。

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