今や地元の人でさえ覚えている人はほぼ皆無なのだが、僕は太田の焼きそばには深い縁がある。
その昔、僕が創刊50年以上の歴史がある旅行雑誌の編集長だった頃、他の旅行雑誌社と一緒の共同取材会というのがあって(これ、結構頻繁にあった)群馬県の太田市へ出かけたのである。
が、恥ずかしながら、僕はちょいと寝坊をしてしまい、間に合うだろうとタカをくくっていたら乗るべき電車が目の前で出発してしまった。
急いで群馬県東京事務所の担当者の携帯に電話をして、遅れる旨を伝えて、現地では市の観光担当者が離班して迎えにきてくれた。
で、この人が、皆に合流するまでの道すがらに、僕に“変わった焼きそば店”のことを話して、
「ちょっとほかにないですよ。もう、真っ黒ですから」
というのだ。どうせ遅れついでだから食べてみますか、と言われて、行きましょう、という話をし、初めて見た太田の「I屋」の焼きそばは、驚くほどに真っ黒だった。マジでイカスミが入っているかと思った。
しかし、レシピは当時も今も、いまだに非公開だ。