あなたが「俺の株式会社社長」ならばどうするか?

QUESTION:あなたが「俺の株式会社社長」ならばどうするか?

今回のリアルタイムケース

あなたが「俺の株式会社社長」ならばシェフの退職も相次ぐなかいかに成長を継続させるか?

今回のケースは、ミシュラン級のシェフが腕をふるう高級料理を低価格で提供し、外食業界に革命を起こした俺の株式会社の戦略についてです。

# 俺の株式会社が急成長を遂げた要因は何でしょうか?

# 客離れ、看板シェフの確保が懸念されるなか、高回転率の維持とシェフの確保のために、どのような戦略を取るべきでしょうか?

企業情報

以下からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。経営に正解はありません。以下を見る前に、あなたが経営者であったならどうするか、一度考えてみてください。

BBT-ANALYZE:大前研一はこう考える~もしも私が俺の株式会社社長だったら~

※本解説は2015/12/20 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています

大前の考える今回のケースにおける課題とは

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」「俺の割烹」など「俺のシリーズ」レストランを、国内外に展開する俺の株式会社。一流シェフの手がける高級料理を高い客回転率により低価格で提供するコンセプトがヒット、外食業界においてフード原価率30%未満が常識とされるなか、原価率60%で黒字を出すビジネスモデルは業界に革命をもたらした。2011年の第1号店出店以来、銀座を中心に店舗数を増やし業績を伸ばすが、流行り廃りの激しい外食業界において、ビジネスモデルの根幹を成す高回転率の維持と一流シェフの確保が課題となっている。

外食業界に革命をもたらしたビジネスモデル

数々の事業を手がけた坂本孝氏による新たな事業

一流シェフが高級料理を低価格で提供する、独自のビジネスモデルで外食業界に革命をもたらした俺の株式会社。設立者の坂本孝氏は、中古本販売「ブックオフ」の創業者として同社を全国1,000店舗以上の規模に成長させた経営者です。坂本氏は1940年に山梨県甲府市に生まれました。大学卒業後に家業の精麦会社を継ぎますが、1970年にオーディオ販売店を起業したのを始まりに、洗車事業、中古ピアノ販売、喫茶店、化粧品販売などの多くの個人事業を手がけ起業家人生を歩みます。そして、1990年に50歳で「ブックオフ」を創業、2005年に東証一部上場を果たしましたが、2007年に架空売上計上の指摘を受け引責辞任します。その後は2009年にVALUE CREATE株式会社を設立し、外食産業へ参入します。

そして2011年9月、東京・新橋に「俺のイタリアン」1号店をオープンし、行列ができる大人気店になります。13番目の事業として、2012年に「俺の株式会社」を設立し、「俺のイタリアン」、「俺のフレンチ」、「俺の割烹」、「俺のやきとり」など、「俺のシリーズ」のレストランを国内に32店舗、海外に3店舗オープンしました(図-1)。

独自性が大行列を生んだ「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」のコンセプト

ミシュランの星付き高級料理店で活躍してきた一流シェフを起用し、高級食材を使った料理を驚くような低価格で提供するというのが、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」のオリジナルコンセプトです。食材の原価率は60%と高く、一見、相矛盾するコンセプトに思えますが、立食スタイルで2時間制をとり、1日3回転以上の高い回転率により低価格を実現しました。

低価格だからといって料理を少量にするのではなく、料理を堪能できるように一皿を十分なボリュームに設定しています。トリュフやフォアグラなどの高級食材が高級レストランの約1/3の価格で食べられるという独自性と競争優位性がヒットし、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」は大行列をつくる人気店になります(図-2)。

フード原価率60%という外食業界の常識を覆した革命的な戦略

食材の原価率は30%未満が常識とされている外食業界において、食材の原価率を60%に上げている「俺のシリーズ」は革命的な業態です。コスト構成比率の内訳を見ると、高級飲食店のフード原価率は30%、ドリンク原価率は30%に対し、「俺のシリーズ」のフード原価率は64%、ドリンク原価率は34%になっています。しかし、高級飲食店の客回転率が1日1回転未満なのに対し、「俺のシリーズ」は3回転以上を実現することで、固定費である人件費や家賃・諸経費の比率が大幅に下がり、高原価率でありながら利益を確保しています(図-3)。

「俺のシリーズ」の業績とフード原価率を詳しく見てみましょう。[図-4/「俺のシリーズ」の業績と平均フード原価率]は各業態のデータをまとめたもので、平均フード原価率はいずれも50~60%台です。業態によって店舗面積(坪数)や営業時間は異なりますが、客単価は「俺のそば」を除いて、概ね3,000〜4,000円の居酒屋並み、平均月商は「俺のフレンチ・イタリアン」が6,100万円と高く、「俺のだし」を除いて概ね2,000~3,000万円です。

「俺のシリーズ」で多業態展開、5年目にして成長鈍化

売上高と店舗数の推移を見ると(図-5)、2011年の1号店出店以降、数年で急激に伸びていますが、2015年には成長が鈍化しています。出店当時の売上高は7.7億円でしたが、翌年は13.4億円と約1.7倍になり、さらに2013年には前年比約2.3倍の30.9億円、2014年には約2.4倍の74.2億円と大幅に成長、しかし、2015年には前年比約1.2倍の92.3億円と鈍化しています。

店舗数についても2011年9月に「俺のイタリアン」第1号店を出店後、「俺のフレンチ」、「俺のスパニッシュ」、「俺のやきとり」、「俺の割烹」、「俺のそば」、「俺の焼肉」、「俺の揚子江」、「俺のだし」と、多角的に展開します。その数は2015年時点で35店舗となっていますが、前年と比べると国内店舗数は変わらず、海外店舗が3店舗増加したのみとなっており、出店ペースにも陰りが見えています。

「俺のシリーズ」のブランド力強化を狙ったドミナント出店戦略

銀座で圧倒的な存在感を確立し、自社内競争を促進

「俺のシリーズ」は銀座8丁目を中心にドミナント 出店しています(図-6)。坂本氏は、銀座という日本一舌の肥えたマーケットでドミナント展開ができれば、どこに出店しても成功できるだろうと考えているようです。一流シェフがつくる高級料理を低価格で食べられるとあれば、世間の関心は高まり、注目を集めます。「あの店は美味しかった」となれば、「じゃあ今度は、『俺の』と付く他の店舗へ行ってみよう」と、系列店舗への誘致効果が生まれます。圧倒的な存在感を確立することで、自店舗のみならず他店舗への集客効果も生むという狙いがあります。

さらに、シェフに裁量権を与え、各店舗の一流シェフがオリジナルメニューで競い合う環境をつくることで自社内競争を促進させ、ブランド力の強化を狙いました。

革命的なビジネスモデルはその継続性・発展性が課題

着席型への転換、看板シェフの退社で客離れが懸念される

急成長した俺の株式会社ですが、先述したようにすでに売上高と出店ペースに鈍化が見え始めています。銀座におけるドミナント戦略も裏を返せば、銀座レベルの集客が見込める繁華街でなければ高回転率を維持できず、地方中小都市程度の繁華街ではそもそも出店が困難だということです。

また、既存店の客離れも懸念されています。開店当初は立食スタイルの2時間制で高回転率を追求していました。これはもともと男性サラリーマンが集う新橋の立飲み居酒屋をイメージしたものでしたが、現在、全店舗で着席型の2時間制に転換し、女性客やカップル客へと客層の拡大を図っています。

さらに看板シェフの相次ぐ退社により、店のコンセプトでもある一流シェフの確保が課題になっています。「俺のフレンチGINZA(現・俺のフレンチ銀座本店)」料理長兼俺のフレンチ取締役総料理長を務めた能勢和秀氏、「俺のフレンチNINGYOCHO」総料理長を務めた大渕康文氏、「俺のイタリアンGINZA(現・俺のフレンチ 銀座並木通)」料理長を務めた市村真朗氏はすでに退社しています。退社の詳しい理由は不明ですが、これまで勤めていた格式の高いレストランに比べて、回転率を重視するスタイルは格式が低いと感じてしまったのかもしれません。いずれにせよ、一人前のシェフを育てるのに10年かかるとされる高級外食業界で、さらにそのなかからネームバリューで集客できる話題性のある看板シェフを確保しないことには、新店舗を出すことはできないのです(図-7)。

一流シェフが高級食材をふんだんに使用し、客回転率を上げることで低価格を実現するという外食業界の常識を覆したビジネスモデルですが、まさにそのビジネスモデルの根幹を成す「一流シェフの確保」と「高回転率の維持」が、事業を継続・発展させていくうえでの最大の課題です。

「高回転率の維持」と「一流シェフの確保」が今後の明暗を分ける

「俺のシリーズ」を継続・発展させていくためには、高回転率の維持と一流シェフの確保が必要です。まず高回転率の維持のためには、銀座ドミナントの利点を活かして、クラブ向けにテイクアウトや仕出しを行うという戦略が考えられます。銀座には約1,500軒の高級クラブがあるといわれますので、各店にメニューを配布し、デリバリーを受け付けます。もともと、日本の外食産業は江戸期において「三業地」と呼ばれる繁華街で発展してきた経緯があります。「三業地」とは料理屋、芸妓屋、待合茶屋(貸席業)の三業の営業を許可された地域を指し、三業地において芸妓との遊興や飲食をする場所に仕出しを行うのが料理屋の役割でした。この伝統的なシステムを現在の銀座に当てはめ、約1,500軒ある高級クラブのセントラルキッチンの役割を担うことで高回転率の維持を図るというコンセプトです。

一流シェフの確保には、「俺の株式会社」がシェフの独立支援を推奨し、著名シェフがキャリアステップの場として「俺のシリーズ」のレストランを活用するサイクルをつくることが有効でしょう。独立支援金やドラフト料でシェフの流動性を高め、新装開店の頻度を上げることで客離れを防ぐという戦略です。一流シェフに対し、「ほんの2~3年でもよいから、あなたのキャリアのなかで一度くらい原価を考えずに高級食材をふんだんに使用して腕をふるってください。場所は銀座の最高の場所を提供します。その後、独立を考えるなら金銭的な支援もしますよ」などと言えば、一流シェフも転職に対して心理的なハードルが下がり、2~3年くらいやってみようという気になるのではないでしょうか。

また、新人シェフがキャリアステップの場として「俺のシリーズ」を活用する仕組みを考えてもよいでしょう。一流シェフのなかには、すでに体力が衰え第一線に立つことが難しいという高齢シェフも多いようです。そのような知識と経験豊富な一流シェフが再び活躍できる場として、彼らに新人シェフの養成を任せます。そうして育成した弟子たちを「俺のレストラン」で暖簾分けするという循環をつくっていけば、新人シェフから現役一流シェフ、伝説級の元一流シェフまでが集う場所として「俺の」ブランドの魅力が増し、シェフの確保も安定すると考えます。

一流シェフによる高級料理を高回転にすることで価格を下げて提供するという創業当初のコンセプトは非常に良いものです。ただし、今までの戦略では急すぎて焦点が定まらず、継続的に発展していくのは難しいのではないでしょうか。

必ずしも急成長する必要はないので、店舗数を絞り、人口密度の高いエリアに出店すべきでしょう。ブランド数もあまり増やさず、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」「俺の割烹」など、高級感と低価格のギャップを活かせる業態に集中したほうが良いと思います。そして、銀座ドミナント出店を活かして高級クラブへのテイクアウト・仕出しにより高回転率を維持し、シェフのキャリアステップの場として魅力的なシステムをつくって著名シェフの確保を図る、これが私の考える戦略案です。

まとめ/俺の株式会社の戦略案

戦略案1

銀座ドミナント出店を有効活用し、銀座の高級クラブにメニューを配布、テイクアウトや仕出しで高回転率を確保する。

戦略案2

シェフのキャリアステップの場として「俺のシリーズ」レストランを活用するサイクルをつくり、独立開業を支援することで、一流シェフの確保を図る。

(RTOCS®2015/12/20放送より編集・収録)

<本ケースの引用元URL>

■俺の株式会社 http://www.oreno.co.jp/

■東京商工リサーチhttp://www.tsr-net.co.jp/

■フードドリンクニュース フードドリンクレポート

中国、韓国に海外進出。全席着席店が増加。新展開の中で名物シェフの能勢和秀氏が退社。“俺のシリーズ”の今。高回転率の維持は可能か(4-3)

http://www.foodrink.co.jp/foodrinkreport/2015/07/22104758.php

※本書収録の情報について

■本書はBBT大学総合研究所が学術研究及びクラスディスカッションを目的に作成しているものであり、当該企業のいかなる経営判断に対しても一切関与しておりません。■当該企業に関する情報は一般公開情報、報道等に基づいており、非公開情報・内部情報等は一切使用しておりません。■図表及び本文中に記載されているデータはBBT大学総合研究所が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、当総研がその正確性・完全性を保証するものではありません。■BBT大学総合研究所として、本書の情報を利用されたことにより生じるいかなる損害についても責任を負うものではありません。

Information:本書収録ケーススタディ「RTOCS®」とはなにか

Real Time Online Case Studyとは

 本書掲載のケーススタディはビジネス・ブレークスルー大学(以下BBT大学)提供のReal Time Online Case Study(略称、RTOCS®)を基に収録したものです。RTOCS®とは実際の企業や団体を取り上げ、「誰も正解を知らない現在進行形の経営課題」に対し、「実践」と「議論」による徹底的な論理的考察を経ることで、企業が直面している「本質的問題」を明らかにし、「経営者の視点で意思決定」を行う教育メソッドです。

 一方、これまでの古典的なCase Studyとは「既に答えの出た過去の経営事例」について研究者(第三者)が分析した論文をもとにその「教訓」を学び取ることを主眼とするものであり、その学習効果及び育成する人材像は大きく異なります。

 本書では学生が経験したケーススタディを読者のみなさんにも追体験していただけるよう再編集しています。実際のプログラムでは、現在進行形の課題に対し、学生は1週間でリサーチ・分析・議論・考察を経て各自結論を出すことを求められます。また、大前学長も同様の過程を踏み、彼自身の見解を示します。学生は大前学長の見解との比較を通じて、自分自身の分析・考察を省みます。このようなトレーニングを毎週続けることで、経営者としての問題解決力、構想力を向上させていきます。

RTOCS®プログラム 〜3つのPOINT 〜

《1》解決していない=正解のない「現在進行形」の課題に取り組む

既に答えの出ている過去の成功事例を「正解」として学ぶ従来のケーススタディとは異なり、今まさに起きている正解のない課題に取り組むためには、実際のビジネスと同様に自分で必要な情報を収集し、取捨選択し、分析し、考察を重ねて結論を導き出さなければなりません。考える人の数だけ見解が存在し、その解も未知数に進化していく、そんな発展性のあるケーススタディがRTOCS®です。「今」眼前で起こっている最新のテーマを扱うからこそ、変化の激しい社会環境において実感を持って取り組むことができ、即座に実践に活かせる力が身に付くのです。

《2》リーダーの立場になって徹底的に思考する

いかに当事者意識を持ち、自らに責任を置いて課題解決に取り組めるかは、ケーススタディを行う上で非常に大切です。RTOCS®では当事者である実際のリーダーもまだ模索状態にある課題を取り上げるため、彼らとほぼ同じ条件のもと、自らで結論を導かなければならないという緊張感を持つことになります。限られた時間の中で素早くリーダーの立場になり変わり、的確に情報を分析し、自分なりの結論を下す。この緊張感に満ちたトレーニングの積み重ねが、問題解決型の思考力を鍛えていくのです。

《3》ディスカッションすることで広がる発想

課題を抱えている最中、いくら考えを巡らせてもイノベーションを引き出せないことがたびたびあります。その要因に「自分はよく知っている」「考えられるだけ考えた」といった過信による思考の壁が挙げられます。実際のプログラムでは、複数人で深く議論を交わすことによって、そのような思考の壁を壊し思考回路を変えていくことを目指しています。常にブレインストーミングする癖をつけることで、それまでの自分では思いつくことのなかった選択肢、自由度の高い発想を手に入れることができるようになるのです。

是非、本書を基に複数人での議論を試してみてください。

RTOCS®プログラム提供元

■RTOCS®を視聴可能なプログラム

Business Breakthrough Ch(ビジネス・ブレークスルーチャンネル)

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■BBT大学以外でRTOCS®に取り組むプログラム

ボンド大学大学院ビジネススクールBBTグローバルリーダーシップMBAプログラム

大前経営塾

リーダーシップ・アクションプログラム

■RTOCS®の基礎となる思考法を学ぶプログラム

問題解決力トレーニングプログラム