SIGGRAPH2017にて [研究室のいま]



 すぐに書こう書こうと思いながら、数週間が経過してしまったSIGGRAPH2017報告である。SIGGRAPHとは、米国計算機学会(ACM)のコンピュータ・グラフィクス部門の年次大会である。今年はロサンジェルスで開催され、参加者数は14,000人に上った。(それでも1990年代には40,000人を超えたこともあったそうで、最近はコンパクトになった。)会議の構成は、通常の学会のような論文発表会、デモ展示、企業展示などであるが、論文発表以外の部分が非常に大きくなっている。Electronic theaterというCG映画ショーがあったり、SFXのパネルがあったり、専門知識がなくとも楽しめる。

 面白いのは、これだけ大衆的な学会でありながら、学術的にもこの分野における最も権威ある学会である。VRの専門家のほとんどが世界の研究動向を知るためにこの学会をウォッチしているといっても過言ではない。ちなみに今年の話題の一つは、ディープラーニングのような新しいAI技術がいろいろな形で取り込まれた論文の多さであった。もはや職人的な映像技術が、理論的なコンピュータ技術を存分に取り込みだしたということであろう。

 アニメ・ゲーム大国と言われている我が国であるが、技術的には、こうしたダイナミズムに欠けているのが問題だ。有力大学や学術会議のようなアカデミアでこういう分野が本気で扱われていないこと、産業界は産業界で目先のビジネスに夢中で基礎的研究に資源を投入する態度にないことが、これから効いてくるかもしれない。

 実際、SIGGRAPHでも、論文の分野では日本の存在感は薄く、中国にすでに抜かれている。しかし、そういう状況の中、わが国の存在感が抜きんでている分野が一つある。”Emerging Technology”(E-Tech)と呼ばれるVRの実演展示部門であり、ここは5割以上が日本勢で占められている。もちろん、きびしい査読をくぐり抜けての話である。日本のVR研究がコンピュータサイエンスの中でも、世界に存在感を発揮している分野の一つだと言われる根拠のひとつである。

著者の研究室も、幸いにして毎年、このE-Techにて発表を行ってきた。今年は、「無限階段」といって、実は平らな平面を歩いているだけなのに、無限にのぼりつづけることのできるVR階段の提案である。

 今年のテーマの中心人物は修士の1年生である。著者が学生のころ、修士1年でトップカンファレンスの発表など思いもよらなかった。国際化の進展を実感すると同時に、若い世代も頼もしい限りである。旧世代としては、やはり次のステップとして、論文発表の分野でも勢力拡大してほしいと思ってしまうが、その一方で、こうした新しい発表スタイルに重点的に資源を投入して洗練化し、この分野で日本独特の存在感をアピールしていった方が良いのかも知れない。悩むところである。