他人をバカにすることで生きる男たち――⑲ナチス強制収容所の生存者と“自称エリート”と。

【他人をバカにすることで生きる男たち――⑲ナチス強制収容所の生存者と“自称エリート”と。】

前号から続いています)

マンションのコンシェルジュやコンビニ店員を怒鳴り、匿名で弁護士を罵倒し、デキる部下を窓ぎわに追いやり、「大年増の厚化粧」だの「少しは女らしくしろ」だのと女性たちをバカにする………。

「ああいう輩には、なりたくない」と、誰もが眉をひそめる言動をとる彼らはいずれも社会的評価の高い「属性」を手にした、“自称エリート”たちです。

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環境が心に与える影響は前回書いたとおりですが、私たちは自分が属する社会で、ときに自分ではどうすることもできない理不尽な状況に遭遇し、それでもなんとかつじつまを合わせ、生きていく必要があります。

このつじつまを合わせる感覚こそが、SOC、Sense of Coherence 。

直訳すると首尾一貫感覚です。

SOCは、「人生であまねく存在する困難や危機に対処し、人生を通じて元気でいられるように作用する人間のポジティブな心理的機能」のこと。

わかりやすく言うと、「生きてりゃしんどいこともあるよ。それはそれとして、明るく生きようぜ!」っというたくましさです。

人生では自分の意思では止めることも、避けることもできない危機や困難に遭遇します。

絶望の淵に立たされ、どう生きていけばいいのか分からなくなります。

生きている意味を失いそうになります。

そういった理不尽な状況でも、決して楽観することなく「悪い情報」や自分のネガティブな感情に冷静に向き合い、虚脱と絶望に襲われながらも、嘆き続けることをやめ、顔を上げ、前を向いて歩く強さを、私たちは人間は持っている。

真のポジティブな感情は、究極の悲観論の下で熟成されます。

そうです。SOC理論は、究極の悲観論の上に成立しているのです。



SOCを見つけたのはイスラエル系米国人の健康社会社会学者、A.アントノフスキー博士です。

1970年代、アントノフスキー博士は、ナチスの収容所から生還した人たちの大規模な健康度調査を行いました。収容所といえば、V.E.フランクルの「夜と霧」で語られているとおり、極寒の地で家畜同様の扱いを受け、人としての存在を否定され、極限状態まで追いつめられる理不尽極まりない悲惨な空間です。

そんな場所に長年収容されれば誰だって心に深い傷を負い、たとえ生還したとしても社会に適応などできない。アントノフスキーは当初、そう考えました。

実際、7割の人が不適応状態にあり、心身の不調を訴え、うつ傾向を示し、ひたすら「死」を待っているような人たちもいました。

ところが、残りの3割の人たちは、心身が良好で、元気に働いていました。

とても元気にイキイキと、暮らしていたのです。

なぜ、この人たちは、こんなに元気なのか?

ひょっとすると人間にはストレスを退治するような力があるのではないか?

そう考えたアントノフスキーは、インタビュー調査を繰り返し繰り返し行い、彼らの「健康の謎」を解こうとしました。

その結果たどり着いたのが、SOC理論です。

アントノフスキーがSOC理論を提唱した1970年代以前から、「貧困のクモの巣に捕えられながらも、元気に前向きに生きる人」「生まれながらにして貧しく、問題のある両親に育てられながらも、責任深く、愛情にあふれ、健康的に成長する子供」がいることはわかっていて、それは心理学者たちの長年の“謎”だった。

その「健康の謎」を、アントノフスキーはSOC理論で説明したのです。

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