女王様のご生還 VOL.271 中村うさぎ
私は努力が嫌いだ。小学生の頃から「やればできる!」みたいな激励の言葉が苦手だった。いくら小学生でも、「やってもできない事はある」くらいの現実は理解している。たとえば私は幼い頃から虚弱体質で体力も運動神経も並み以下であるから、かけっこで一等賞を取るなんて芸当はどんなに努力してもできっこない。そういうのはスポーツに向いてる人が努力すればいいのであって、最初から劣っている私が努力する必要なんてどこ...
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私は努力が嫌いだ。小学生の頃から「やればできる!」みたいな激励の言葉が苦手だった。いくら小学生でも、「やってもできない事はある」くらいの現実は理解している。たとえば私は幼い頃から虚弱体質で体力も運動神経も並み以下であるから、かけっこで一等賞を取るなんて芸当はどんなに努力してもできっこない。そういうのはスポーツに向いてる人が努力すればいいのであって、最初から劣っている私が努力する必要なんてどこ...
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「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日俵万智氏の有名な短歌である。「サラダ記念日」が大ヒットした1987年当時、29歳だった私はこの歌があまり好きではなかった。短歌としてどうこうではなく、何でもかんでもやたら「二人の記念日」にしたがる人たちの習性が好きじゃなかったからだ。今でも映画などの中で「今日は何の日か覚えてる?二人の初デート記念日よ!」みたいな台詞が出て来ると「ふふん...
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母が死んで数か月経ち、ようやく母の銀行口座の凍結が解除されたらしい。「らしい」というのは、すべてを父が牛耳っているので、私には皆目わからないからである。母の銀行口座には約600万円ほどの預金があった。法的にはその半分を父が、残りの半分を私が相続する。つまり、約300万円ずつ山分けするわけだ。ところが父は、その全額を自分の口座に振り込んで欲しいと銀行に頼んだという。銀行から電話があり「よろしい...
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ネズミは迷路の夢を見る、らしい。脳学者の先生から聞いた話だ。毎日迷路を走ってる実験用のネズミは、眠るとその日に走った迷路を夢の中で追体験するそうである。そうやって迷路攻略の記憶を脳に焼き付け、認知能力を高めていくのだ。おそらく犬や猫も、その日の体験を夢の中で再現するのだろう。散歩したりオモチャで遊んだりした記憶だ。うちの猫も時々、眠ってる間に鳴いたり脚をぴくぴく動かしたりしてる。そんな姿を見...
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ブログでも書いたように、ここ最近、60年代にハマっている。で、その流れで60年代を代表するアーティストともいえるアンディ・ウォホールの経歴を調べているうちに、1968年に彼を銃撃したヴァレリー・ソラナスという女性に行き当たった。彼女は「男性根絶協会マニフェスト」なる文書を書いたラディカル・フェミニストとして有名らしく、未だ一部のフェミニストからは高い評価と支持を受けているという。この「男性根...
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私は自分の職業において、「ナンバーワンよりオンリーワン」を目指して来た。ラノベ時代は売り上げが気になり、今月発刊されたラノベの中で自分の作品がどれくらいの位置にいるかを常に意識していたが、途中からそういう闘争心がひどく無意味に思えてきたからだ。順位なんか関係ない。他の誰にも書けないような作品を書いている限り、一定の需要はあるはずだ。今月ナンバーワンになったって、翌月には誰かに抜かれる定め。ナ...
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先日、「ペンギンとは魚になりたかった鳥である」という言葉を耳にした。 何かの本の一節らしいが、私は読んでいないので、前後の文脈も著者の意図もわからない。 ただ、「魚になりたかった鳥」というのが切なくて詩的な視点だなと感じた。 そう、詩的で、そしていかにも人間らしい発想だ。 だって、おそらくペンギン自身の気持ちとしては、別に魚になんかなりたくないと思うもん。 ペンギンは魚の捕食者だ。 捕食者が...
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成田三樹夫という俳優が好きである。「仁義なき戦い」シリーズや「極道の妻たち」シリーズといったヤクザ映画の常連とも言える役者さんで、眼光鋭く痩身でカミソリのようなイメージの人だ。が、名悪役というだけなら他に何人もいるし、実際、ある時期まではその中のひとりに過ぎなかった。私が彼に一気に興味を持ったのは、1978年のTVドラマ「柳生一族の陰謀」である。そのドラマの中で彼が演じた烏丸少将文麿という人...
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心が平安である事を「幸せ」と定義するなら、現在の私は人生で最も幸せであると言えるかもしれない。昔みたいにお金があるわけでもないし、何なら足も手も不自由だったりするのだが、それはあくまで「不便」なのであって「不幸」だとは感じていない。「不便=不幸」では決してないのである。歩けなくなった当初はひどい絶望感と無力感に打ちのめされたものの、10年近く経ったらすっかり慣れて、「ま、しゃーない」と思える...
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名古屋を本拠地とする「猫町倶楽部」という読書サークルがある。病気をする前だからもう10年くらい昔のこと、私はそのサークルの読書会にゲストとして招かれ、それ以来、何度か読書会や懇親会に参加して親交を深めた。その後しばらく疎遠になっていたのだが、このたび久々にお声がかかり、「猫町倶楽部」でカフカの「城」を読む読書会を主催することとなった。カフカの「城」を選んだ理由は、3年ほど前にこの作品を読み解...
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